Quantcast
Channel: 愛情通信
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1532

[再掲載]「千鳥もはこぶ、情と縁」~今日は初夢の日

$
0
0

初夢見た?

▼本日限定!ブログスタンプ

あなたもスタンプをGETしよう

 
 
 
「しらざぁ言って、聞かせやしょう。
浜の真砂と五右衛門が、歌に残せし盗人の
種ぁ尽きねぇ七里ヶ浜

その白波の夜働き、以前を言やあ江ノ島の、
岩本院の稚児上がり、ふだん着慣れし振袖から、
髷も島田に由比ヶ浜
 
打ち込む波にしっぽりと、
女に化けて美人局、油断のならねぇ小娘も、
小袋坂に身の破れ、悪い浮名も竜の口、土の牢へも二度三度、
段々くぐる鳥居数
 
八幡様の氏子にて、鎌倉無宿と肩書きも、
島に育ってその名せえ、弁天小僧の菊之介、
面など見知ってぇ、もらいやしょうかぁ」

鳴り止まない拍手‥時に太陽のように激しく、
時に月のように妖しく、時に星のように穏やかに照らすスポットライト。

あたしの名前は「磯浜 海老衛門」
ちったぁ名の知れた「海鮮座」の花形役者さ。

座長は苦みばしったいい男の「灘巻 雲丹蔵」
今日はやっとこ長かった公演もはねてひと休みさ。

あたしゃお風呂に入ってちょいと1杯‥たまんないねぇ。
 
若いモンたちゃそれぞれ好き勝手のんでるだろうしさ。
それに、あたしみたいな上のモンが変に顔だしゃあ、
下のモンは気ばっかり使って楽しめやしない。

そんな野暮はゴメンだね。

あたしゃ、風呂に浸かってほんのり紅くなった身体を冷やしながら、
冷たい酒を飲んでいた。

するってぇと‥ドンドンドンドン‥ドンドンドンドン‥
誰かが閉まっちまった小屋の戸を叩いてるじゃあないか。

海老「まったく‥こんな遅くに誰だい」

若い衆は今、楽しい盛りだ。
呼びつけて相手をさすのも可哀相だったしさ、あたしが戸を開けにいったのさ。

海老「誰だい?悪いけどさ、もう舞台は終わっちまったよ」

‥ます‥

随分と小さな声だった。

海老「なんだい‥なんて言ったのさ」

あの‥弟子にしてください‥海老衛門さんの弟子に‥。

戸の透き間から覗き込むと、随分とほっそりしたイカが立っていた。
まいっちまったねぇ。おもてにゃ弟子にしてくれってこんな夜遅くに尋ねてきている。

にゃぁ にゃあ

なんてこったい。猫の声が聞こえるじゃないか‥そんなあぶない夜に、
いつまでもおもてにいたんじゃ襲われちまう。

あたしは仕方なしに戸を開けた。

ガラガラ‥

イカ「あっ‥海老衛門さん」

いきなり私が戸を開けたもんだから、驚いている様子‥うふふ、可愛い子だね。

海老「弟子にするしないはあとの話さ、それよりも外は物騒だ‥野良にゃこがうろついてる。
さ、とりあえずお入んなさいな」

あたしは寒さでちょっとスミを吐いていたその子を中に入れた。

いきなり、イカは土下座した。

イカ「おねげぇしますっ‥とうちゃんさ反対しただども、オラ、海老衛門さんのような
立派な役者さなりたくて、田舎さ飛び出してきただ。

帰るところはありません。あたしは、断られたらもう、スルメになるしかねぇんです。
お願いします‥オラを‥オラを弟子にしてくださいっ」

この子の一途な想いとスミはしっかりと、あたしの胸ン中に届いていた。

海老「でもねぇ‥いいかい、芸の道は一生修行だよ。
それよりも、ほかにやりたいことはないのかい」

イカ「そんなもんねぇだ。イカスミパスタにもイカリングにもなりたくねぇ。
まして、ゲソのから揚げなんかさなりたくはねぇもの! お願いしますっ」

海老「そうかい‥」

あたしは昔の事を思い出していた。

海老に生まれて行く末は天丼かエビフライ‥親が引いたレールに逆らって、
家をえび反りで飛び出てもう ふたむかし‥
 
おとっつぁんもおっかさんも、
故郷の海に錦を飾ったときには泣いて喜んでくれたっけ。

そんときに思ったねぇ‥一生懸命生きて、胸張って暮らしてる姿を見せんのが
なによりの親孝行だって。

親の言うままレールに乗って、カラッと揚げられるのもいいかも知れないが、
たとえ逆らっても一生懸命生きてる姿を見せてあげれるのが、いちばんだって言う事に
そんときやっと気付いたのさ‥
 
あの時流した涙と海の水のしょっぱさは、忘れられない塩っけさね。

海老「楽な仕事じゃぁないよ。華やかなのはほんの僅か‥ほとんどが辛い修行ばかりさ。
それでもいいのかい」

イカ「へぇっ!お願いしますっ」

海老「わかったよ」

連れて行こうとしたき、外で物音が。

すると‥タコが物陰からジッと見ている。

海老「なんだい」

あたしがそう聞くと、ふいにタコは泣き出した‥訳を聞くとさ‥

街を歩いても磯を歩いても、海の中にいたってみんな気持ち悪い‥
あっちへ行けといわれるそうだ。

キモい・ウザい・死ねのお決まり三拍子‥いっそたこ焼きになろうかとも思ったが、
なにかこの世に生まれてきた意味を見つけたいと‥そう思ってこの戸を叩きにきたらしい。

タコ「みんな、私を見て気持ち悪いとか、怖いとか‥見てくればかりで遠ざけるんです。
私だって、大根で叩いてから煮ると柔らかくなるんですっ。
 
三杯酢でキュウリともまれると
美味しくなるんです。
 
それをみんなに知ってもらいたい‥。

海老衛門さん‥私、大勢いるタコたちのために‥なにより、自分も輝きたいんです。
夢見る力を、同じように虐げられているタコたちのためにも
私、大空に羽ばたく凧になりたいっ」

タコの凧か‥若いっていいねぇ。

海老「わかったよ‥イカちゃん、タコちゃん‥修行は辛いよ。
弱音とスミを吐いたら、あたしは許さないよ」

イカ・タコ「はいっ」

希望に満ちた顔‥晴れやかな顔をしていたね。

そして。

今日も幕が上がる‥割れんばかりの拍手と歓声が出迎えてくれる。

「潮田 烏賊之丞」今じゃ若手ナンバーワンの女形さ。

「凧村 蛸太郎」荒事をさせれば随一といわれる若手に育ってくれた。

さぁさぁ、海鮮座の幕が今日も上がるよっ。

主役をつとめまするは磯浜 海老衛門。

お引き立てのほど、すみからすみまで、ずずずいっと‥おんねがいぃ‥たてっまつりますっ。

                  烏賊<(_ _)>海老_(_^_)_蛸<(_ _)>

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1532

Trending Articles